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浦和地方裁判所 昭和62年(わ)301号 判決

本店所在地

埼玉県川口市前川一丁目四番七号

丸石化学産業株式会社

(右代表者代表取締役 石塚征治)

本籍

埼玉県川口市前川一丁目八五八番地

住居

埼玉県川口市前川一丁目四番七号

会社役員

石塚征治

昭和一六年一月二四日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官江幡豊秋出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人丸石化学産業株式会社を罰金一八〇〇万円に処する。

二  被告人石塚征治を懲役一〇月に処する。

同被告人に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人丸石化学産業株式会社は、肩書地に本店を置き、合成樹脂材料及びその製品の卸売業等を目的とする資本金八〇〇万円の株式会社であり、被告人石塚征治は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた者であるが、被告人石塚は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入れの計上、売上の除外及び期末棚卸額の一部除外をする等の方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が七〇七六万八六二九円であったにもかかわらず、昭和五八年一一月三〇日、埼玉県川口市西川口四丁目六番一八号所在の西川口税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六二三万八六二九円で、これに対する法人税額が一八四万五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二八七三万一六〇〇円と右申告税額との差額二六八九万一一〇〇円を免れた

第二  昭和五八年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が四三三二万二八九九円であったにもかかわらず、昭和五九年一一月三〇日、前記西川口税務署において、同税務所長に対し、その所得金額が一九一九万八八九九円で、これに対する法人税額が七一九万八七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一七六四万四三〇〇円と右申告税額との差額一〇四四万五六〇〇円を免れた

第三  昭和五九年一〇月一日から昭和六〇年九月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が八一三二万一五二九円であったにもかかわらず、昭和六〇年一一月三〇日、前記西川口税務署において、同税務所長に対し、その所得金額が二〇〇四万九六七六円で、これに対する法人税額が七五四万七九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三四〇七万八七〇〇円と右申告税額との差額二六五三万八〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人石塚征治の当公判廷における供述

一  同被告人の検察官に対する各供述調書(三通)

一  同被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(二一通)

一  同被告人作成の各答申書(三通)

一  石塚千鶴子(八通)、川村一宇(昭和六一年二月二八日及び七枚綴りの同年八月二〇日付け)、稲葉行信(昭和六一年八月七日付け)、山寺幸一及び増沢茂光の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、期首棚卸高調査書、仕入高調査書、期末棚卸高調査書、租税公課調査書、雑貨調査書、受取利息調査書、支払手数料調査書、雑収入調査書、支払源泉所得税調査書、受取源泉所得税調査書及び寄付金の損金不算入額調査書

一  西川口税務署長作成の各証明書(二通)

一  大蔵事務官作成の各査察官報告書(三通)

判示冒頭の事実について

一  登記官作成の登記簿謄本

判示第一の事実について

一  秋葉政美及び浅見素子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(自昭和五七年一〇月一日、至同五八年九月三〇日)

一  大蔵事務官作成の法人税査察更正決議書(昭和五八年九月期分)

判事第二の事実について

一  渡部三郎、宮吉外雄、小林政氏(昭和六一年六月二〇日付け)及び稲葉行信(昭和六一年八月一九日付け)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  渡部三郎作成の答申書

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(自昭和五八年一〇月一日、至同五九年九月三〇日)

一  大蔵事務官作成の法人税査察更正決議書(昭和五九年九月期分)

判事第三の事実について

一  小林政氏の昭和六一年四月一八日付け大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(自昭和五九年一〇月一日、至同六〇年九月三〇日)

一  大蔵事務官作成の法人税査察更正決議書(昭和六〇年九月期分)

(法令の適用)

被告人会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算した金額の範囲内で被告人会社を罰金一八〇〇万円に処し、被告人石塚の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人石塚を懲役一〇月に処し、同被告人に対し情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人石塚が被告人会社の業務に関し、所得を秘匿して三事業年度にわたり法人税を不正に免れたという事案であるが、犯行の態様は、多数の業者に依頼して売上除外を行い、また、休眠会社などの名称を用いて架空の仕入れを計上し、更に期末棚卸額を一部除外するなど種々の方法で所得を秘匿した上、仮名口座に裏資金を預金するなどの工作をしており、その手口は巧妙かつ計画的で悪質というほかはなく、ほ脱金額も六三〇〇万円余りの多額に上り、ほ脱率も約八割と極めて高率であって悪質といわざるを得ず、また、本件犯行の動機にも酌むべき点はなく、被告人石塚の刑責は重大であるといわなければならない。しかし、他方、被告人石塚は被告人会社が査察を受けるや本件犯行を素直に認め修正申告をして法人税の本税及び重加算税等を納付したこと、被告人会社は青色申告承認取消処分を受け、取引先からも取引を停止される等の社会的制裁を受けていること、被告人石塚は前科前歴がなく、本件について深く反省していることなど、被告人らに有利な事情もあるので、これらの情状を総合して、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上原吉勝 裁判官 木村博貴 裁判官 近藤宏子)

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